こんにちは。石垣島・平久保半島で星空ガイドを10年以上続けている新垣信成です。平久保半島自治協議会の会長も務めています。
「石垣島は星空保護区だから、どこでも星が綺麗に見える」——この言葉を信じて石垣島を訪れ、期待と違ったという声を何度も聞いてきました。結論から言います。石垣島の星空保護区は現在も「暫定認定」のままであり、保護区内のすべての場所で美しい星空が見えるわけではありません。
この記事では、地元で10年以上星空に向き合ってきた一次情報として、星空保護区の認定制度の仕組み、なぜ暫定認定のままなのか、保護区内でどこが本当に暗いのか、そして私たちが地域でどう星空を守っているのかを、数値データとともにすべてお伝えします。
石垣島の「星空保護区」とは何か——DarkSky Internationalの認定制度
星空保護区(International Dark Sky Place)とは、アメリカに本部を置く非営利団体「DarkSky International(旧称:国際ダークスカイ協会 / IDA)」が認定する国際的な制度です。光害が少なく、暗い夜空を守るために優れた取り組みを行っている地域を、世界規模で認定・表彰しています。
認定にはいくつかのカテゴリーとランクがあります。石垣島が認定されているのは「ダークスカイ・サンクチュアリ(Dark Sky Sanctuary)」というカテゴリーで、最もアクセスが困難で、かつ極めて暗い地域に与えられる認定です。最高ランクの「ゴールドステータス」を取得するには、夜空の明るさが21.75 mag/arcsec²以上(暗いほど数値が大きい)という厳しい基準をクリアする必要があります。
認定の正式名称と範囲
石垣島の星空保護区の正式名称は「西表石垣国立公園(やえやま星空保護区)」です。ここで重要なのは、保護区の範囲が西表石垣国立公園の範囲とほぼ一致しているという点です。つまり、石垣島北部(平久保半島の一部)だけでなく、西表島・竹富島・小浜島・黒島・新城島なども含まれた広大なエリアです。
「星空保護区=石垣島全域」ではありません。石垣島の中では、ごく北部の一部エリアのみが保護区に含まれます。石垣市街地や南部のリゾートエリアは保護区の範囲外です。
なぜ「暫定認定のまま」なのか——7年経っても正式認定されない理由
石垣島の星空保護区は、2018年に最初の暫定認定を受けてから現在まで、正式認定には至っていません。多くの観光サイトが「星空保護区認定!」と書いていますが、正確には「暫定認定」の状態が続いています。
その最大の理由は、保護区として申請した範囲が広すぎることにあります。先述の通り、保護区の範囲は西表石垣国立公園とほぼ同じです。このエリアには、石垣市街地の光害の影響を受ける地域——特に竹富島や西表島の東側——が含まれています。これらの地域では、夜空の暗さが認定基準に達していません。保護区全体として基準をクリアできていないため、正式認定に至っていないのです。
石垣市街地は島の南部に集中しており、その光は夜空を照らし続けています。国立公園という指定があっても、市街地の街灯、漁港の照明、リゾートホテルの光が消えるわけではありません。保護区の名称が先行し、実態の整備が追いついていない部分があるというのが正直なところです。
数値で見る「本当の暗さ」——場所による圧倒的な差
星空の美しさは、感覚だけでなく数値で客観的に測定できます。夜空の明るさを計測する単位「SQM値(Sky Quality Meter / mag/arcsec²)」で比較すると、石垣島の中でも場所によってどれだけ差があるかが一目瞭然です。
| 計測場所 | SQM値 (mag/arcsec²) | 評価 |
|---|---|---|
| 平久保半島・久宇良地区(流れ星の丘) | 21.62〜21.99 | 世界最高クラス(理論限界値に迫る) |
| 理論上の限界値(人工光ゼロ) | 約22.0 | 完全な暗闇の理論上の上限 |
| DarkSky ゴールドステータス基準 | 21.75以上 | 最高ランク認定に必要な基準値 |
| DarkSky 認定基準(最低ライン) | 20.00以上 | 保護区認定に必要な最低限の暗さ |
| 石垣市街地周辺 | 推定 19〜20程度 | 天の川の観測が困難 |
| 一般的な都市部(東京・大阪など) | 17.0〜18.0程度 | 天の川はほぼ見えない |
この表からわかるように、平久保半島・久宇良地区で計測された21.95 mag/arcsec²という値は、ゴールドステータスの基準値(21.75)を大きく上回り、理論上の限界値(約22.0)に迫る世界最高レベルの暗さです。一方、同じ石垣島でも市街地周辺では認定基準ギリギリの数値しか出ない可能性があり、まさに「天と地の差」です。
保護区の中でも別格——平久保半島がここまで暗い地理的理由
なぜ平久保半島だけがこれほど暗いのか。その理由は、この場所の地理的条件が「光害を排除するために設計されたかのように」完璧だからです。
理由①:石垣市街地から40〜50km以上離れている
平久保半島は石垣市街地から北へ約40〜50km以上離れています。この距離感は、八重山諸島の中でも「最も遠い離島」として知られる波照間島から石垣島を見る距離と同じくらいです。つまり、平久保半島は陸続きでありながら、実質的には「光害ゼロの離島」に匹敵する暗さを持っているのです。
理由②:沖縄県最高峰の於茂登岳が光害を遮断
石垣市街地と平久保半島の間には、沖縄県で最も標高が高い於茂登岳(おもとだけ・標高525.5m)がそびえ立っています。この山が天然の「壁」として機能し、市街地の光が平久保半島に届くのを物理的に遮断しています。
理由③:半島の地形が四方を海に囲まれた構造
平久保半島は、石垣島の北東に細長く伸びる半島で、直線距離で約20kmに及びます。半島の入り口は非常に狭く、両側の海の間はわずか100メートルほど。まるで石垣島から海に向かって架けられた「天然の橋」のような形状です。四方を海に囲まれているため、周囲からの光害の影響をほとんど受けません。
理由④:西表石垣国立公園に指定された開発規制エリア
平久保半島の全域が西表石垣国立公園に指定されており、リゾートホテルは一軒も存在しません。コンビニも街灯もほぼなく、夜になると文字通りの「漆黒の闇」に包まれます。この厳しい開発規制が、結果的に世界最高レベルの暗さを守り続けているのです。
「雲の色」でわかる——プロが現場で使う暗さの判断方法
10年以上星空ガイドを続けてきた経験から、夜空の暗さを一瞬で判断できるシンプルな方法をお伝えします。
夜、空に浮かぶ雲は何色に見えますか?
光害のある場所では、雲は街の光を反射してオレンジ色や白色に光って見えます。石垣市街地の上空に浮かぶ雲は、まさにこの色です。しかし本当に暗い場所——平久保半島の久宇良地区のような場所——では、雲は宇宙から降り注ぐ星々の淡い光を遮るため、黒く見えます。
雲が黒く見えたら、あなたは本当に暗い場所にいる証拠です。石垣島に来たなら、まずは空の雲の色を確認してみてください。この「雲の色テスト」が、最もシンプルで正確な暗さの判断基準です。
星空保護区なのに星が見えない?——よくある3つの誤解
誤解①「石垣島ならどこでも星が綺麗」
最も多い誤解です。石垣島の市街地は人口約5万人の都市であり、飲食店・ホテル・街灯の光で夜空はかなり明るくなっています。地元の人でも、市街地から遠い平久保半島に行ったことがない人が多く、市内に住むほとんどの島んちゅ(島民)は天の川を見たことがありません。バンナ公園や川平湾がよく星空スポットとして紹介されていますが、地元の人間がそこに星空を見に行くことはまずありません。
誤解②「星空保護区に認定されている=正式認定」
先述の通り、現在は暫定認定の状態です。多くの観光メディアがこの事実に触れずに「認定」とだけ書いていますが、正式認定と暫定認定は異なります。正式認定を得るには、保護区エリア全体で夜空の暗さ基準を満たす必要があり、現時点ではそれが達成できていません。
誤解③「保護区内は光害対策が完璧に行われている」
現実には、路上駐車問題が年々深刻化しています。街灯がほぼない平久保半島の県道に、夜間に観光客の車が路上駐車する状況が増え、安全面でも環境面でも大きな課題です。また、平久保半島内での新たなリゾート開発計画も出てきており、光害の増加リスクは常に存在しています。
認定に頼らない——平久保半島自治協議会の独自の取り組み
DarkSky Internationalの正式認定が進まない中、私たちは外部の認定を待つだけではなく、地元主体で星空環境を守る行動を起こしています。
平久保半島の5つの自治会(久宇良・平野・平久保・明石・伊原間)が連携して設立した「平久保半島自治協議会」(会長:新垣信成)では、以下の活動を継続的に行っています。
「平久保半島憲章」に基づく光害対策
平久保半島での新たなリゾート開発を計画する企業に対して、「平久保半島憲章」に基づく光害対策の実施を書面で通達しています。具体的には、夜間の屋外照明の制限、光の漏れを抑える遮光設計の採用などを求めています。企業と対立するのではなく、共に星空を守る方法を話し合うテーブルを設けるアプローチを取っています。
行政・警察との連携による安全対策
石垣市や警察と連携し、路上駐車問題への対策や、農地への無断立入り防止の啓発活動を行っています。星空は誰のものでもありませんが、農地や私有地は地元住民の生活の場です。星空を楽しむためにも、マナーを守ることが不可欠です。
DarkSky Internationalの正式認定を待つだけでなく、地元の人間が地元の星空を自分たちで守るという姿勢こそが、この地域の星空を未来に残す力になると信じています。
石垣島の星空保護区で本当に暗い場所はどこか
保護区の中でも、星空の見え方は場所によって大きく異なります。最高の星空を見るために重要な3つの条件は、市街地からの距離、地形による光害の遮断、周辺の開発状況です。
石垣島でこの3条件を最も高いレベルで満たしているのが平久保半島です。市街地から40〜50km以上離れ、於茂登岳が光害を遮断し、西表石垣国立公園に指定されたエリアでリゾートホテルが1件も存在しない、360度視界が開けた高台——流れ星の丘は、まさにその条件がすべて揃った場所に位置しています。
「星空保護区だから星が見える」のではなく、「光害のない暗い場所だから星が見える」のです。この違いを理解することが、石垣島での星空体験を成功させる最初のステップです。
よくある質問(FAQ)
Q. 石垣島の星空保護区は「正式認定」されていますか?
A. いいえ。2018年の最初の認定以降、現在も暫定認定の状態が続いています。保護区エリア内に光害基準を満たしていない地域が含まれているため、正式認定には至っていません。
Q. 石垣島のどこでも天の川は見えますか?
A. いいえ。石垣市街地周辺では光害のため天の川の観測は困難です。天の川を肉眼ではっきり見るには、平久保半島のように市街地から大きく離れた場所に行く必要があります。
Q. DarkSky Internationalと国際ダークスカイ協会は別の団体ですか?
A. 同じ団体です。かつて「国際ダークスカイ協会(IDA:International Dark-Sky Association)」と呼ばれていましたが、現在は「DarkSky International」に名称が変更されています。
Q. 平久保半島の夜空はどのくらい暗いですか?
A. 専門家の定点調査でSQM値 21.62〜21.99 mag/arcsec²が計測されています。ゴールドステータスの基準値(21.75)を大幅に上回り、理論上の限界値(約22.0)に迫る世界最高クラスの暗さです。
Q. 星空保護区に自分で行っても安全ですか?
A. 平久保半島は街灯がほぼなく、農地や私有地が多いエリアです。夜間に一人で訪れることは推奨しません。また、夜行性のハブも生息しています。安全に最高の星空を体験するには、地元の星空ガイドツアーへの参加をお勧めします。農地への無断立入りは地元農家への迷惑行為となりますので、絶対にお控えください。
まとめ:石垣島の星空保護区について知っておくべき事実
この記事でお伝えした要点を整理します。
認定状況:石垣島の星空保護区は2018年から暫定認定のまま。正式認定には保護区全域での暗さ基準クリアが必要。
認定機関:DarkSky International(旧:国際ダークスカイ協会 / IDA)。正式名称は「西表石垣国立公園(やえやま星空保護区)」。
保護区の範囲:西表石垣国立公園とほぼ同一。石垣島全域ではなく、北部の一部のみ。竹富島・西表島なども含む。
本当に暗い場所:平久保半島・久宇良地区。SQM値21.62〜21.99で世界最高クラス。市街地から40〜50km離れ、於茂登岳が光害を遮断。
地域の取り組み:平久保半島自治協議会が「平久保半島憲章」に基づく独自の光害対策・環境保護活動を継続中。
石垣島の星空は本物です。ただし、その「本物」に出会うためには、正しい場所を選ぶ必要があります。この記事が、あなたの星空体験をより豊かなものにする助けになれば嬉しいです。
文:新垣信成(流れ星の丘・平久保半島自治協議会会長)

